3つの書き下ろしを含む、計6つの短編が収録された本作品。

各作品ごとに、作風も、リズムも、文章の様式さえガラリと変わる短編集。

その手法に驚愕させられると同時に、「本当に1人の作家が書いているの??」と懐疑の念が湧くほどである。

松井玲奈著「カモフラージュ」 表紙

著者である松井玲奈さんに対し、メディアを通して持っていた印象は主に2つ。

  1. 偶然目にしたドラマの中で演じていた、狂気をまとった役柄「激辛」
  2. バラエティ番組で鉄道について熱く語る「鉄オタ」

これらの印象に加えてつい最近、発売中とするところを発売中止(!)とTwitterで告知してしまう「あわてんぼう」が新たに加わった。

※追記
(ドラマで演じた役柄はカタカナ表記で「ゲキカラ」のようだ。お詫びして訂正するとともに、松井玲奈さんご本人は大の激辛好きであるらしいということを書き添えておく。)

著者に関して世間一般程度の予備知識しかない筆者であっても、時々メディアを通して拝見する、どこか「ミステリアス」な雰囲気を纏う松井玲奈さんの描く6つの「化けの皮」に興味をそそられ、この度本作品を手にした次第である。

思えば、紙の本を手にしたのはいつぶりであろうか。本作品「カモフラージュ」を表現する表表紙はもとより、化けの皮を一枚剥がしてみると、隠された「裏側」を垣間見ることが出来る。

松井玲奈著「カモフラージュ」 化けの皮を一枚剥いだ姿

この辺りは紙媒体ならではの楽しみであろう。



人は誰しも、隠しながら生きている

さて、本作品の中でも極めて印象深かった作品が、二作目に収録されている『ジャム』である。

少年がある日出くわす非現実的な描写。やがて少年自身にも訪れる変化は、少年が「大人」になるための通過点でもある。

「大人」になる過程において、大多数の人間が浸食されていく秘めたる「病気」。

ややもすると、グロテスクな表現が際立つ作品になるとは思うのだが、そこにあまり「血生臭さ」を感じさせないのは、リアルを物語の描写に上手くカモフラージュさせている作者の力と言えるかもしれない。

本書のタイトルに最も相応しい作品のように感じる。



幸福を探す「不思議の国のありす」

話は変わって、三作目に収録されているのが、メイド喫茶の世界に夢を見る少女『いとうちゃん』。

周囲の反対を押し切り、憧れの「ふしぎの国」に紛れ込んだ少女は、理想と現実のギャップに悩み、その結果、ますます理想から離れていく。そのジレンマは日に日に大きくなり、やがてふとしたキッカケで一気に弾ける。彼女がたどり着く先は…

恐らく、主人公が抱くテーマ自体は、街を歩けばそこら中に転がるごくありふれた悩みなのだろうが、このありふれた悩みが作者の手に掛かると一つの物語として成立する。

人には誰しも心安らげる居場所がある。いとうちゃんにとって、本当の居場所は「ぽむぽむ」であり、明太子スパゲテティ バター増し増しだったのであろう。ぽむぽむ…なんとも心地の良い響きである。


松井玲奈著「カモフラージュ」 裏表紙



作家 松井玲奈という存在

本作品「カモフラージュ」の著者である松井さんは、日常を切り取り、作品の描写に落とし込む能力が抜群に高い。観察眼が鋭い、とも表現出来よう。記事の冒頭でも紹介したように、好きなものを細部に渡って一途に愛する「オタク気質」がそうさせるのだろうか。

こうも見事な作品の出来映えであると、つきまとうのは「″芸能人″が書いた」「″元アイドル″が書いた」という枕詞ではなかろうか。

しかし、一読者から言わせればそんなことは大きな問題ではない。知ってもらうキッカケは何だっていいのである。なにせ筆者が本作品の発売を知ったキッカケは、Twitter上に流れてきた著者本人による「発売中止」のアナウンスなのだから。

本作品に出会わせてくれた発売中止のツイートに感謝すると共に、作家 松井玲奈がこれからどんな「化けの皮」を見せてくれるのか期待しつつ、短編集「カモフラージュ」の書評とする事にする。


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